3分で読めるエッセイ「何様ですか?」

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和風

「忙しい」という言葉を使っているけれど、本当は忙しいわけではない。何かと理由を付けて、後回しにしているだけである。

最近は、そんなこんなで読書をあまりしていない。(ここでいうあまりとは、全くと同じ)

そうすると、どうしても文章を書く場面にぶち当たった時、自分の語彙力のなさに驚かされる。多重人格者ではないかと疑われるくらい、日々文章が違う。読書というのは、どんなに忙しい状態でも、ほんの少しでもいいから毎日続けるべき、トレーニングの一つなんだと実感した。

語彙力の低迷は、本当に恐ろしい。何か言いたいことがあるのに、相手に自分の思いの半分も伝えられていないような感覚に陥る。もっと怖いのは、言葉がわからなくなってしまうことだ。

いつか昔に、移動で近所を回っているというパン屋さんに遭遇した。移動パン屋さんなんてここら辺ではかなり珍しかったことと、たまたまその時は犬の散歩で無一文だったのにも関わらず食いしん坊だった私は移動パン屋さんに声をかけた。

「頻繁にここら辺を通りますか?」

「はい、最近は」

引き寄せられるように、ぞろぞろと人が家から出て来る。知らないのは、私だけのようだった。

「結構みなさん買いに来るんですね」

「そうなんです、ありがたいことに。この辺りに住んでるんですか?何様ですか?」

笑顔で訊ねる男性に、私は硬直した。

何様?

なに…さま?

私は無意識のうちに彼を怒らせてしまったのだろうか。何か失礼なことを言っただろうか。いろいろ考えて、ここでようやくパン屋さんが訊ねた「何様」とは「どちら様」なのだと理解した。わかったら余計に、怖くなった。

好きなことやひとつのことばかりしていると(彼の場合パンばかり焼いていたからだろうか)、何かが乏しくなってしまうのだろうか。確かに、ずっと人と合わずにコミュニケーションを絶ち続けていると、どう人と接したらいいのかわからなくなる。長年やってきたからと言って、しばらくそこから離れると、人は忘れてしまう。

私がその移動パン屋さんと遭遇したのは、それっきりだった。もしかしたら、言葉遣いに関してクレームが来たのかもしれない。


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プロフィール
2あそこのほくろ

プロ小説家を目指す主婦。「通りすがりの人の身体のどこかにあるほくろくらいどうでもいい話」をコンセプトに、このブログで3分で読めるエッセイを執筆。小説家になろう・カクヨム・アルファポリスにてオリジナル小説を公開。

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