3分あれば読めるエッセイ「ひとこと」

Sponsored Links

花

私が最短でアルバイトを辞めたのは、4時間働いた翌日だった。

大学生になったばかりのときに、人生で初めてアルバイトをしようということになった。高校ではバイトは禁止で、唯一許されていたのは郵便局の年末年始アルバイトのみだった。実際、卒業する前にこのアルバイトをして、卒業旅行へ行ったことがあった。

大学在学中はこの最短記録を出したあと、ちゃんと卒業までひとつのアルバイト先で働いた。では、私はなぜ最短記録でここをやめたのか。ずばり、初日からいじめにあったからであった。

働きに出た先は、コンビニだった。夕方から夜10時までという時間帯で、学生やサラリーマンでごった返す大変忙しい時だ。まずアルバイト初心者の私は、レジの打ち方すらわからなかった。ベテランふたりのところに入れてもらったのにもかかわらず、ベテランふたりはなぜかふたりで品出しに行き、私一人をレジに立たせた。私が話しかけても、あまり反応はなく、嫌われている感じがとにかくすごかった。

温かい商品について、頼まれたときはどうしたらいいのかを訊ねた。

「見ればわかるでしょ。難しいことじゃないし」

確かに、そんなに難しいことではないけれど、それを質問することさえ私は許されないんだろうか。無知すぎて話にならないと思われているんだろうか。教える気がないのはわかったので、もし注文されたら今までコンビニに行って注文してきたときのことを思い出しながらやるしかない。そう思った。

弁当を抱えたお客さんが、アメリカンドックを頼んできた。大変失礼なのだが、見た目からして優しそうな人にはとても見えなかった。注文の仕方も結構ぶっきらぼうで、厳つい感じの男性だった。

誰も手伝ってはくれないし、初日なのにこの待遇ではこの先やっていけない。お客さんはなんか怒ってるみたいだし、泣きそうになった。

「あの、」

男性が突如声をかけてくる。

男性客の後ろには、ずらっと並んだお客の列が。怒られる。私がもたもたしてるから、お客さんたちもイライラし始めている。

そう思って、びくびくしながら「はい」と答えた。

「急がなくて、大丈夫だから。ゆっくりで、いいよ」

まさかの一言に「へ?」と思わず声が出そうになった。

彼にとっては、おどおどしていた私にかけた何気ない一言だったのかもしれない。何かを意識したわけでもなく、普通に思ったことを言っただけだったのかもしれない。でも、その一言で私は救われた。

人は見かけによらない。私にとって人生で一番短い労働の中で得たものは、悪い人もいればいい人も平等にいるということだった。彼のことは、私はこの先一生忘れないと思う。


Sponsored Links

The following two tabs change content below.

凛子

小説家を夢見る主婦。「通りすがりの人の身体のどこかにあるほくろくらいどうでもいい話」をコンセプトに、このブログで3分で読めるエッセイを執筆。小説家になろう・カクヨム・アルファポリスにてオリジナル小説を公開。